父から母へのありがとう


5月8日の母の日は「お母さんいつもありがとう」と感謝を伝える日ですが、私の父は母に対して一度も「ありがとう」を言ったことがない人でした。

母は、一家の大黒柱である父のために、いつも父を優先的に考え、父のために何でもしてあげて、父の身体のことを考え食事も健康維持のメニューで作っていました。

そんな母に対し、父は当たり前のように母に感謝を伝えることはなかったといいます。
父に不満が募る母は、「もう一緒にいるのも嫌になる」というおもいになっていました。

そんな日々が続いていた時、父が転んで怪我をして入院する事になりました。

コロナ禍で病院での面会は一切受け付けてもらえず、家族であっても誰も父に会うことはできませんでした。

入院が数か月続いていた中で、父の容態が急変し、医者からは「後2、3日しかもたない」と宣告され、
今まで誰も父と面会することができませんでしたが、もう最後かもしれないとのことでようやく面会の許可が下りました。

家族みんなが一人ずつ父との面会をして、思い思いに父との交流ができたようです。

母が「背中痒い?かいてあげようか?」と言って父の背中をかいてあげたところ、父が「気持ち良か、ありがとう」と、初めて母にありがとうを伝えて、両手で合掌の形をしたそうです。

このやりとりがあったことで、今まで父から「ありがとう」と言われたことがない母は、
「背中をかいたことのありがとうか、もしかしたら今までの分のありがとうを言ってくれたのかもしれないね」と、今までの父への不平不満が全部払拭されたようでした。

そのまま息を引き取った父に、家族みんなが「お父さん、お疲れ様でした。お父さんありがとう!」を何度も繰り返し伝えていました。
私も、眠るように亡くなった父の身体を触りながら、撫でながら、何度も「お父さんありがとう」を伝えました。

今までは両親の観いは向き合うことがなく、バラバラだったのですが、父の最後の「ありがとう」の言葉で夫婦の観いが通じ合い、赤い糸の絆が強くなったように感じます。

素晴らしい家族との出会いに、本当に感謝でいっぱいです。

(東京都 ASさん)